遺言すべき場合


万一の場合に備えて遺言書の作成を検討してみましょう。

遺言書というとどのようなイメージをお持ちになりますか。遺言は自分の亡くなった後の事を最後の意思として形に残すことです。遺言を残すことで、相続発生後のスムーズな手続きが期待できます。遺言書をどのような場合に書くべきか、その注意点について確認してみましょう。

・内縁パートナーに財産を残したい

・配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、財産の全てを配偶者に残したい

・相続人間での争いが予想される

・相続人以外に財産を残したい

・お世話になった方に法定相続分より多くの財産を残したい

1.遺言の種類

遺言の代表的な形式について確認したいと思います。

●自筆証書遺言

基本的には全文を自筆で記載し、日付、署名し押印する形式の遺言書です。気軽に作成できる分、形式上の不備があった場合、遺言書は無効となります。

●公正証書遺言

公証人関与のもと遺言書を作成します。費用は掛かりますが高い公証力があります。

2.遺言を残す前提としての知識

①.法定相続関係

先ずは民法で規定された相続関係を確認してみましょう。

配偶者は常に第一順位の相続人となります。

第一順位:子

第二順位:直系尊属

第三順位:兄弟姉妹

内縁パートナー等、法定された相続人以外は基本的に財産を受け取ることはできません。


遺贈の種類と遺留分

遺言による贈与が遺贈です。遺贈には以下の2種類があります。

・土地・建物・預貯金など特定の財産を指定して遺贈する:特定遺贈

・財産を特定せず相続財産の割合を指定して(例:1/2)遺贈する:包括遺贈

これら遺贈を行うときに注意した方が良いのが【遺留分】です。法定相続人が主張できる最低限の相続財産です。遺贈により法定相続人の遺留分が侵害された場合、法定相続人と受遺者(遺贈を受けた人)の間で争いとなる可能があるためです。遺留分を有する推定相続人は兄弟姉妹以外の相続人となります。

3.遺言する際の注意

●遺留分に配慮した遺言書を作成する

● 付言事項として遺言の趣旨を説明するなどして相続発生後の相続人間の摩擦を減らす

→付言事項には法的な拘束力はありません

●自筆証書遺言の場合にはその形式に十分注意する

●遺言執行者を決めておく

4.遺言を残す具体的な検討・理由

内縁パートナーに財産を残したい

内縁関係について考えてみたいと思います。法律的には婚姻意思をもって共同生活を営みながら届出を書くため法律上は婚姻と認められない事実上の夫婦関係と定義されます。

婚姻に準ずる関係であると解されており、婚姻に関する規定が準用されるケースもありますが、そうでないケースもあります。例は婚姻費用の分担義務、帰属不明財産の共有推定などです。財産分与は離別の場合には認められますが、一方が亡くなったケースでは認められません。

一方準用されない代表的なケースとして、姻族関係の発生、配偶者の相続権です。

つまり、内縁パートナーが亡くなった場合には相続権もなく財産分与も法律上認められないことになります。このような場合に遺言書でパートナーへ遺贈する旨、意思表示をしておけば残された方は財産を承継する事ができるという訳です。

●配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、財産の全てを配偶者に残したい

結婚していて子供がおらず、両親が既に他界している。この場合、相続人となるのは【配偶者】【被相続人の兄弟姉妹】となります。法定相続割合は、【配偶者:3/4】【被相続人の兄弟姉妹1/4】となります。

配偶者が全てを相続する為に、被相続人の兄弟姉妹と関係が良好で遺産分割協議に応じてくれればよいのですが、そうでなければ心理的には大変な負担となります。このような場合、配偶者に全てを相続させる旨の遺言書があれば、遺産分割協議は不要となりその後の手続きもスムーズです。兄弟姉妹には遺留分(相続人が必ず受け取ることが出来る相続財産)がないのでこの点もクリアーできます。


●相続人間での争いが予想される

●相続人以外に財産を残したい

●お世話になった方に法定相続分より多くの財産を残したい

親の相続に関して配偶者と子供は各(1/2)であり、それを子供の人数で均等に分配することが基本となります。長男・次男・長女・次女など生まれた順番、性別によって違いは生じません。また養子であっても実子と同じ扱いとなります。これと少し事情が異なるのが被相続人の兄弟が相続する場合です。両親が同じ親から生まれた子供の間(全血兄弟)ではその相続分はすべて平等に扱われます。しかし、異父兄弟・異母兄弟(半血兄弟)のケースでの兄弟相続においては、全血兄弟と半血兄弟では相続分が異なり、半血兄弟は、全血兄弟の1/2 が相続分と定められています。相続人間の関係性が希薄であるような場合は特に争いが顕在化しやすいので遺言書を残すとよいでしょう。

5.結論

相続関係、人間関係、個人の事情は様々です。のこされる家族の気持ちや経済状況を考慮の上、一度遺言書の作成に関して検討をしてみてはいかがでしょうか。


記載日:2023/8/27