不動産登記の現場(売買)


中古不動産売買を例に登記の準備段階から登記完了までの流れを確認してみましょう。

不動産を購入する際、その裏側では登記申請に向けた手続きが進んでいます。その準備段階から登記完了までを理解することで、登記の意味をご理解いただけると思います。

①最初に

ー登記の前提となる権利関係ー

売却前の不動産登記簿を以下であると仮定してみましょう。


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甲区番   所有権移転 平成2月4日 受付番号第22番 平成24年6月4日売買  所有者A株式会社

甲区3番   所有権移転 平成27年6月4日 受付番号第36689番 平成24年6月4日売買  所有者B

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乙区3番 抵当権設定 平成27年6月4日 受付番号第36690番 平成24年6月4日金銭消費貸借同日設定 抵当権者D銀行株式会社  債務者B 債権額7500万円

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上記を言葉にすると、平成27年6月4日A株式会社所有の本件不動産をBが購入した。その代金の支払いを行う為、BはD銀行株式会社から融資を受け、本件不動産に抵当権を設定した。

②売買の決定と登記手続きの概要

上記不動産をCがBから購入することが決定しました(CもBと同じく住宅ローンをE銀行から組んでの購入)。

Bは売買代金で自らの住宅ローンを完済します。登記上は乙区3番の抵当権の抹消という結果につながります。従って最終的に登記簿は以下の通り更新される事が決まり、手続きの概要が決定します。

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甲区2番   所有権移転  所有者A株式会社

甲区3番   所有権移転  所有者B

甲区番   所有権移転  所有者

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乙区3番 抵当権設定 抵当権者D銀行株式会社

乙区番 3番抵当権抹消 

乙区番 抵当権設定 抵当権者銀行株式会社 

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乙区4番の抵当権抹消、乙区5番の抵当権設定に関して事前に各金融機関と調整をおこないます。

③売買契約と所有権移転

売買契約を締結した際、所有権移転時期に特約が付いているケースが大多数です。

●所有権移転は代金を受け取った時に行われるという内容です。

売買契約は通常契約成立と同時に権利移転がなされるので、その時期が特約で変更されているという事になります。

つまり、契約→所有権移転まで時間的な開きがあるという事です。

ではこの間に所有者(不動産の売主)が亡くなってしまった場合どのようになるのでしょうか。前述の通りまだ、売買によって所有権は移転していませんので、相続による権利移転が先に発生することになります。売主の相続人は売主の地位を承継するので契約自体は有効に継続しています。

①売主の相続人への所有権移転登記

②売主の相続人から買主への所有権移転登記(当然代金支払い後)

④代金決済日の流れ

時系列ではE銀行株式会社からの融資実行をスタートに連続して以下の効果が生じます。

①E銀行株式会社がCに対して融資を実行

②Cの銀行口座にお金が着金

③Cの口座からBの口座へ送金(売買代金の支払い)

④Bの口座へ着金:着金と同時にCへ所有権移転移転

⑤Bは着金したお金で、購入時組んだD銀行株式会社への債務を弁済:弁済と同時に抵当権抹消

◆登記手順

D銀行株式会社の持っている抵当権を抹消→Cの所有権取得→E銀行株式会社の抵当権設定

この登記手順は入れ替えることはできません。この点重要です。一般にCが所有権を取得する前に、担保権や用益権を全て抹消するという特約があるのが一般的なので、その特約を守るためには所有権移転前にCの設定したD銀行株式会社の抵当権を抹消する必要があります。また、Cに権利を移転しないとCが新たに借りたローンに対するE銀行株式会社に対する抵当権設定ができません。

上記一連の流れを代金決済日当日一気に行う為、取引日は売主・買主いずれも緊張の一日になるかと思います。

⑤代金決済日のハプニング

不動産決済時の ハプニングを類型別にすると以下の通りです。緊張の一日だけに色々なことが発生する可能性があります。

●登記に必要な書類がそろわない

→買主が住民票を忘れた:ローンの設定がない場合に多い。

→売主が権利証(登記識別情報)を忘れた

→売主が印鑑証明書を忘れた、期限が切れている

→評価証明書を忘れた

●売主の方が実印を間違えて持ってきてしまった、そもそも実印を忘れた

●売主の住所変更が印鑑証明書を確認して判明

→売主に住所変更登記が追加になり、登記費用が変更。住民票等の追加取得が必要

【同時履行】の考え方の元、全ての正しい書類(印鑑)が整わないと、お金が流れないのが基本です。忘れ物があった場合には家までこれらを取りに行っていただく事が必要です。つまり予定日に所有権を取得できるか危うくなってきます。売主の権利証については、万一紛失されていたような場合には、権利証に代わる本人確認情報を作成して権利証に代わる書類とします。

ちなみに同一年度内に不動産の登記がされていれば、登記申請書に【年月日受付○○号の価格援用】と記載する事で【評価証明書】の添付を省略することも出来ますが、基本は書類全てがそろう事が代金支払いの条件です。

⑥決済終了後

●売主の抵当権抹消の為、抵当権抹消銀行へ解除証書等の預かりに向かう(登記簿上売主の設定した抵当権がある場合)

→事前に完済されてる場合や、抹消の金融機関が決済に同席する場合にはこのプロセスは不要

●要件を満たす場合、買主の住宅用家屋証明を取得する為に区役所・市役所へ向かう(買主が購入住居を居住用に使う場合)

→投資用であったり、セカンドハウス用途の場合には取得不可

10時に銀行で不動産決済が始まった場合、書類の説明・記載、売買代金着金等を経て12時に決済が終了したとして17時に登記申請を終える必要があるため、決済終了後は無駄なく上記の書類を集めた後、登記を申請する為、時間的には結構タイトなスケジュールをこなすことになります。

現在登記申請は、書面申請とオンライン申請の2つの方法で行う事ができます。オンライン申請の場合、物理的に管轄法務局まで出向く必要がないのですが、書面申請の場合は法務局に書類を持ち込むことになります。つまり書面申請の場合には上記に加えて、法務局へ行くというプロセスが加わるため、タイムマネージメントの必要が更に増すことになります。

⑦登記完了まで

登記申請を行い特に問題がなければ、そのまま法務局から連絡等はなく登記が実行されます。

法務局から連絡があった場合は、その連絡内容に対応することになります。

かなり複雑な土地の登録免許税の計算、添付書類に関する確認、申請書記載の内容と登記原因証明情報に一致しない内容がある場合などがその代表例です。これらの内容に対して場合によっては法務局に出向いて訂正(補正)を行います。

また、権利証(登記済証、登記識別情報通知)を紛失しており法務局からの事前通知制度を利用する場合には登記申請後、法務局から事前通知があります。この事前通知に返答することで権利証がない場合でも登記が実行されます。通常の登記よりも時間がかかる点ご理解を頂けるかと思います。管轄法務局の受付やHPには登記完了予定日が記載されているので、その日程が一つの目安となります。


◆オンライン申請をした場合:法務局からの送信データによりシステム上で登記が完了した事を知ります。

→その後、登記識別情報通知書・登記完了証・原本還付書類の送付を受けます。

◆書面申請をした場合:登記識別情報通知書・登記完了証・原本還付書類の送付を受けます。

登記識別情報通知書・登記完了証・原本還付書類を手もとに備えた後は、申請した内容が間違いなく登記されているかを確認します。

特に名前の漢字や住所、抵当権の登記事項などが間違っていないかは念入りにチェックします。登記申請後もこのチェックが終わるまで気が抜けない状況が続きます。

確認終了後、法務局で登記事項証明書を取得して依頼人にこれらの書類を送付します。権利証などは特に重要な書類であるため書留扱いの郵便で発送します。

⑧最後に

登記が権利関係を忠実に示している事をご理解いただけた事と思います。住宅ローンが絡む場合には、我々司法書士がその登記を担うことに成ります。それは手続き上のミスがあり、金融機関が担保権を設定できない事でリスクが生じるのを防ぐためです。マイホームを購入される際、これらの流れをご理解いただいていると手続きの真の意味をご理解いただけるかと思います。